柑橘の中でも古くから自生したものは橘だけであり、平安期には紫宸殿の、左近の桜・右近の橘として神聖視されている。また橘は「常世の国」すなわち海の向こうの理想郷からもたらされた、その仙境に生える神聖な果実とされ、古くから吉祥の文様と して喜ばれている。 この色絵橘文皿は、若干低い高台の櫛目文様や、実に使われている臙脂色の上絵や、染付の葉の上のわずかに残る金彩など珍しい意匠がみられるが、裏文様の七宝文などから、最盛期に近い、試行錯誤した時期の作であると思われる。 (文・14代今泉今右衛門)