鎬の削りを入れた形状に青磁釉と透明釉を掛け分けた、鍋島らしい現代的な意匠の千代口である。この千代口が手に入った経緯を説明すると、父・十三代がある方の別荘に招かれたときのこと、そこの洗面所でこの千代口が歯ブラシ立てに使われていたという。それで、別荘の主人に父が「これは、鍋島の青磁で貴重なものだから、大事にした方がいいですよ」と進言し、次に伺うと、その千代口は大事にしまってあったということである。
しかし、それからまもなく、別荘の主人が、「自分は古陶器はあまり好みではないので、買ってもらえないか」と来られたことで手に入ったものである。確かに歯ブラシ立てには絶妙の形状であり、別荘の洗面所には似合う色彩であり、案外似合っていたのではないかと想像する。それにしても、すっきりとした、センスの良い千代口である。
(文・14代今泉今右衛門)
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