この作品は、十数年前、父と二人で見て、購入を決めた小鉢である。鍋島特有の青磁掛け分けの技法が使われ、鍋島によく登場する宝尽し文様が描かれている。
購入時は鍋島の珍しい小鉢であるという認識のもと、平成10年春の企画展「青磁展」にも出品し、パンフレットの裏面にも写真付きにて紹介していた。当時から透明釉の部分の凸凹に多少の不安はあったが江戸期のものと認識していた。しかし、その後この宝尽しと全く同じ絵の、小さな振出のような瓶を古美術商の方が持ち込み、その二つを比べてみると、絵は隠れ蓑の線描きの線の本数まで同じであるが、絵の大きさが違う。転写紙の縮小・拡大の方法しか考えられない。しかし、青磁の雰囲気は江戸期の鍋島のようである。
以上の事から、江戸期の青磁が掛かった生地の中央の部分の釉薬を削り取り、宝尽しの絵の転写紙を貼り、透明釉を施す(イングレ転写の場合は施釉し、転写紙を貼る)方法を使ったのではないかと推察し、結論は今後の研究を待つことにした。この場合、江戸期の生地が残っているのかという疑問はあるが、少なくとも今右衛門では、昭和初期の施釉された本窯に入れる前の生地は沢山残っている。
古陶器にはこのように結論が出ないものや、見る人によって意見が違うものが多いのも事実である。少なくとも、江戸期の人は誰も生きていないし、江戸期のものについては推論でしか断定できないのも事実である。
(文・14代今泉今右衛門)
|