鍋島では珍しい白磁の作品である。形状的にどのような技法により制作されたのか定かでない小鉢である。
この小鉢を手に入れた経緯は、14代の襲名のときに、ある方から一生の記念になるものを買ってくださいと御祝をいただいた。自分の仕事に対し今後の「鍋島」に携わる決意として、相応しい鍋島の古陶器がないかと探しているときに、古美術商の方から紹介してもらった作品である。この作品を手にしたときは、成型のすばらしさと同時に、この作品から伝わる何ともいえない気品と格調を感じ、鍋島の精神を継承する心を正させられたことを思い出す。
そして数年前、ある画廊から、企画として「華」というテーマで作品を制作してくださいという依頼があり、最初は六花といわれる「雪の結晶」の作品を制作していたが、母から、「何かもっと華と解る作品がいいんじゃないの」。そして「あの百合型の小鉢のような作品が創れないの」という話になり、この「白磁百合型小鉢」を基に試作を重ね、百合型の平鉢の制作に至った。この私の作品は、有田の最も古い轆轤の型打ち成型により制作しながら、現代的な新しい作域を創り出すことができ、伝統のあるべき姿を表現できたのではないかと我ながら喜んだものである。さらに、これを基本として制作を重ねたものが、現在、菊池智美術館の「現代の茶陶展」に出品している。
十四代今右衛門を襲名して六年、皆様からいただいた様々なご縁に感謝をしている。この古陶器に関しても、最初の、一生の記念になるものと言っていただいたご縁、古陶器を手に入れるご縁、画廊からの「華」のテーマをいただいたご縁、母からの助言のご縁、さらに「現代の茶陶展」に出品させていただいたご縁。今後もご縁を大切にしていきたいと感謝している。
(文・14代今泉今右衛門)
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