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古陶磁コラム  
2008年8月

染付唐花文千代口

鍋島様式・17世紀後期
イメージ

 染付にて描かれた唐花文が瑞々しく、変形の口部をした洒落た向付である。
円窓の中の唐花文は染付の線描きによって描かれているが、背景の縦線部分については白抜きの「墨はじき」の技法が使われているようであり、この事は、かなり以前から気付いてはいた。
 その後、描いたところが白抜きになる「墨はじき」の反転の発想に対する興味から、墨はじきを重ねたり、白化粧と組み合わせたりしながら制作を続けていた。そして、十四代を襲名するにあたり、「墨はじき」を技法の核として制作を始め、改めて「墨はじき」の技法が使われた古陶器を見てみると、主の文様の背景の、青海波や放射線やこのような縦線に「墨はじき」の技法が使われていることが多いことに気が付いた。その理由として、「墨はじき」のひかえめな表現の雰囲気が、主の文様を引き立たせるための背景を描く方法として使われているのではないか、そのような目にみえにくいところへの心遣いが、鍋島の品格に繋がっているのではないかと思うに至った次第である。
 この考えは、自分が初めて気が付いた事であると思っていたが、先日、父が雑誌などに掲載していた文章を読み返していると、「鍋島における墨はじきとは、主文様を描く技法ではなく、背景の従の文様を描く技法である」という文章を見つけ苦笑したものである。父が事あるごとに、「伝統とは受継ぐものでなく、その代のものが、自分で気が付き、見つけていくものだ」と言っていた言葉を納得する次第であった。

(文・14代今泉今右衛門)


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