月見の風情を思わせる初期伊万里の小皿の陶片である。陶片といっても縁が少し欠けた程度で、飾るには何の支障もない五寸皿である。
私は以前から、家にある父が蒐集した陶片の中でこの皿が一番好きであった。月見の頃にこの皿を自分の家に飾りたいなと思い、父に「この皿借りていっていい」と聞いたところ、「そんなものは、自分に聞かずに黙って、そっと持っていかにゃあ」と言われ、それ以来、我が家に借りたままになっている。あれだけ古陶器や陶片を蒐集しながらも、物にあまり執着しなかった父らしいエピソードである。見れば見る程ほのぼのとした三日月と兎の絵柄である。今年も中秋の名月の頃に飾るつもりである。
私は十数年前頃造っていた盃に、山と月と兎をモチーフに数多く描いていた。勿論、その兎はこの小皿の兎が基になっている。しかし、この兎をそのまま描いてもなかなか様にならない。だから、この小皿を見て写すことなく、この兎の雰囲気を基に自分のイメージによって兎を描いていたことを思い出す。当時はこれらの兎を銀彩によって描いていた。その発想が現在のプラチナ彩に繋がっていると思える。
(文・14代今泉今右衛門)
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