色鍋島の代表的な千代口である。今でこそ代表的といっても誰も疑わない作品であるが、父が購入した50年程前、その東京の有名な古美術商では、はっきりと鍋島とは解っていなかったということである。そして購入した折、父が「これは、いい鍋島ですねー」と言って店を出てきたら、次回そのお店に訪ねてみると、あと一点同じ「椿つなぎ文千代口」があったらしく展示してあり、価格が五倍に高くなっていて、大変驚いたということである。 「墨はじき」による縦線を背景として、椿つなぎ文を浮かび上がるような意匠は絶妙であり、鍋島の風格と品格を感じさせる名品である。 (文・14代今泉今右衛門)