2009年04月
色絵唐花文蓋物 リモージュ作 20世紀前期
これは10年程前、イタリアへ旅行に行った際に父へお土産として買ってきたアンティークのピルケースである。これをフィレンツェのあるお店で見つけた途端、父はかねてから「手のひらに収まるようなものが好きだな」と言っていたこともあり、「大きさといい、色合いといい、これこそ、父の好みだな」との確信を持って買って、お土産として渡したら、あまり芳しくないリアクションであった。先日その事を母に話すと、「そうね、あのときお父さんは、不思議と喜ばなかったねえ、覚えていますよ」と言う。
作品というものに対し、私は以前から、世間一般の方々に対し制作するよりも、求めていただける方に対して、その方を思い浮かべながら制作したものの方が制作に対する思いが伝わるのではないかと思っている。この蓋物も、父の顔を思い浮かべながら、それも「絶対これは好みだな」と思いながらのお土産であったので意外であった。今でも腑に落ちない思い出である。
(文:14代今泉今右衛門)